【映画レビュー】茜色に焼かれる

【映画パンフレット】茜色に焼かれる 監督 石井裕也 キャスト 尾野真千子, 和田庵, 片山友希, オダギリジョー, 永瀬正敏, 大塚ヒロタ

7歳で母を亡くした石井裕也監督が、一人の母の姿を描いた映画『茜色に焼かれる』
長引く“コロナ禍”という事態の中で、経営していたカフェを失いながらも強く生き抜く母と、そんな母の心がわからないながらも母を助けたいと願う中学生の息子の物語です。

監督が「2020年夏、しばらく映画はいいやと思っていた矢先、突然どうしても撮りたい映画を思いついてしまい
ました」という本作。
みんながマスクで口を覆い、パーテーション越しにコミュニケーションをとらなくてはいけない、この2020-21年という時代をリアルタイムで映し出しています。

人が生きて、人と人がつながっていれば、そこに未来が広がっていく……。
そんな、石井裕也監督ならではの、愛と希望の物語を、尾野真千子がすさまじい迫力で体現した、この時代の空気を如実に描き出した作品でした。

<STORY>
田中良子の夫は7年前に交通事故で亡くなった。事故を起こしたのは元官僚の老人で、痴呆症を患っていたため逮捕もされなかった。良子は一人で息子の純平を育てていたが、経営していたカフェはコロナ禍で破綻し、今はスーパーの花売場とピンクサロンでアルバイトをしている。そんな状況でも、良子は義父の老人ホームの入所費や、夫が愛人との間に作った娘の養育費も負担している。息子の純平は、そんな母の本心がわからないでいた……。

<解説>
2019年の4月に起こった東池袋自動車暴走死傷事故。この事故以來、“上級国民”という言葉が使われるようになりました。
そして2020年。新型コロナウィルスの影響により、国民は外出を自粛し、他社とは距離をとるようになり、飲食店は休業を余儀なくされ、人が外に出る時にはマスクや消毒が必須の世の中となりました。

人心は荒み、自分より立場が下だと思うものに対するハラスメントや差別が横行し、社会的弱者は切り捨てられていく……。今の日本の底辺には、そんなクソみたいな世界が広がっています。

この映画『茜色に焼かれる』では、そんなクソみたいな世界で、息子のため、家族のために仮面をつけて生きるシングルマザーの姿が描かれています。
彼女が演じているのは、従順なアルバイト社員役、明るくはしゃいで見せる風俗嬢役、義父の面倒や夫の婚外子にも経済的支援を続ける夫を思う妻役、夫の友人ととも命日に夫を偲ぶ未亡人役など、久しぶりの恋の予感に舞い上がるアラフォー女性役など、その場その場でさまざまな役を演じています。

他人から見れば、そんな彼女が何を考えているのかはまったくわかりません。
それはやはり、かつてアングラ演劇で活動していた彼女が、実生活でも仮面をつけて“役”を演じているからでしょう。

人を殺しても謝らない上級国民、立場の弱いアルバイト社員を簡単にクビにするスーパーの店長、年齢がいっている風俗嬢を馬鹿にしながらも彼女を相手に性欲を処理しようとする客、いじめを楽しむ中学生、生徒のいじめを見てみぬふりをする教師、かつての同級生を弄び不倫を楽しもうとする男。
クソみたいな世界に生きる、弱者を食い物にしようとする人間を相手に、彼女は踏みにじられていくのです。
そんな日々に、ただ彼女は「まあ頑張りましょう」と笑みを浮かべてやり過ごそうとしています。

そんな彼女が本当の顔を見せ、本当の心を晒すのは、家族、そして自分の尊厳が脅かされた時。
夫を殺しても謝らなかった上級国民の家族や弁護士に食ってかかり、息子の純平がいじめられていることに気付かぬふりをする担任教師を責め、自分を弄んだ男に戦いを挑んでいくのです。

弱肉強食のサバンナの世界でも、自分と家族の命をつなぐため、強く生き抜く女豹……。
隠された彼女の本性は、まさに女豹なのかもしれません。

クソみたいな世界のなかで生きる、茜色に生命を燃やす彼女の姿に、強い生命力を感じました。

 
『茜色に焼かれる』(144分/日本/2021年)
公開:2021年5月21日
配給:フィルムランド
劇場:TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて
監督・脚本・編集:石井裕也
製作:五老剛/竹内力
音楽:河野丈洋
主題歌:GOING UNDER GROUND「ハートビート」
出演:尾野真千子/和田庵/片山友希オダギリジョー永瀬正敏/大塚ヒロタ/芹澤興人前田亜季笠原秀幸鶴見辰吾嶋田久作泉澤祐希/前田勝/コージ・トクダ
Official Website:https://akaneiro-movie.com/

 

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