【本】シナリオ人生 / 新藤兼人
御年98歳の現役映画監督・新藤兼人監督が2004年に出版された回想録「シナリオ人生」を読みました。
新藤監督が、生涯を振り返りながら小津安二郎監督のシナリオ作法や、溝口健二監督の撮影時の姿などを語っている本書。
それこそ、トーキーの時代から日本映画の勃興を見続けて来た監督だけに、軽い筆致の中にもしっかりとした重みがあり、思わず引き込まれてしまいます。
尾道に生まれた少年が、映画製作に憧れて京都に行き、伝手を頼んで京都で暮らし始めます。
なんとか新興キネマ撮影所の現像場にもぐりこみ、初めて映画がシナリオからできていることを知ります。
そして、入社から1年が経ったころ、新興キネマの東京撮影所立ち上げに伴い、東京に移住し、美術部に異動。
村田實監督、溝口健二監督らの作品で美術を担当しつつ、シナリオコンクールに応募して当選、ここから、新藤兼人はシナリオライターへの道を拓いて行くのです。
本作中で紹介されている小津安二郎監督のシナリオを作るまでの過程や、溝口健二監督の演出作法など、新藤監督が語る往年の名匠たちの姿は、実際に一緒に仕事をした人にしかわからないリアリティがあって、なかなか興味深いです。
特に溝口健二監督に関しては、すごい監督だとは認めつつも、複雑な心情を抱いているらしいことが読み取れて、ちょっと面白かったです。
こだわりを持ち、作家性の強い監督であるがゆえに、一緒に仕事をするスタッフとしては段取りどおりに進まなずイライラしたり、映画以外の政治向きのことには疎く、なかなか頼れなかったり…。
でも、自信を持って見せた脚本を、
「これは脚本ではありませんね、ストーリーです。こんなことじゃだめだね」
溝口健二に一蹴されたことにより、新藤兼人は真に脚本に目覚めたのだと思います。
「ドラマは人生そのものであり、それは発端、葛藤、終結の三段階で構成される」
新藤兼人監督の持論は、「シナリオは発端、葛藤、終結の三段階から構成されている」というもの。
でも、98歳の現在も現役で、さらなる新作の撮影に取り組もうとしている新藤兼人のドラマは、まだまだ中盤“葛藤”の状況なのかもしれません。
■目次
I 小津の重箱
II 現像場でシナリオを発見した
III 溝口健二のシナリオ作り
IV これはシナリオではありません
V ドラマは三段階である
岩波書店 (2004-07-21T00:00:00.000Z)
¥770
日本経済新聞出版社
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